外付け海馬

備忘録

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

全体小説としての泉鏡花『風流線』

泉鏡花の大作『風流線』『続風流線』。これら二作は実質的に一つの作品といって問題のない小説です。 これは、藤村操が華厳の滝で哲学的自殺をした事件や、維新後の近代化における国家的事業としての鉄道建設、偽善的慈善事業家の造形、江戸及び明治における…

第一章には名高い紳士、ラ・マンチャのドン・キホーテの人となりと平生とを述べる。(『ドン・キホーテ』島村抱月・片上伸訳)

名はわざと省くが、ラ・マンチャのある村に、久しからぬ前、長押《なげし》の槍、古い楯、痩せ馬、狩りのための猟犬などを備えている紳士の一人が住んでいた。羊肉よりも牛肉の多いゴッタ煮、大方の晩は肉《にく》生菜《サラダ》、土曜日には屑肉、金曜日に…

たけし

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菜食主義者の猫と、自分を猫と思い込む鼠(『1Q84』と『豊饒の海』)

世界にネズミと猫の話は数限りありませんが、日本語で書かれた長編小説『1Q84』と『豊饒の海』にも登場します。 この二つの話の共通点の一つは、両方とも自分の属性を否定するようなユニークな主張(思想)を持ったキャラクターがいるところです。これらは作…

永遠よりも遠い時間(ムージル の「合一」概念について)

己の文学の最終目標をムージルは「合一」という言葉で表した。彼は生涯この境地を書き表すことを目指した。 小説『愛の完成』では、ある女の合一の境地への気づきと、そのための実践、そして合一への予感が描かれる。女は夫と愛し合い、互いに心の通じ合った…